ドジョウ汁(綾歌郡など)

2000年8月7日

連帯味わう男の料理

大勢で大なべを囲み、体中から噴き出る汗をふきふき、ドジョウを丸ごとすする。讃岐人にはこたえられない味の一つだ=綾南町滝宮、綾南署
大勢で大なべを囲み、体中から噴き出る汗をふきふき、ドジョウを丸ごとすする。讃岐人にはこたえられない味の一つだ=綾南町滝宮、綾南署

 「このぬめりがこたえられん」「暑い時。全身の汗をふきふき野菜や魚のエキスが詰まった熱い汁は最高や」

 屈強な男たちが頭や尻尾(しつぽ)から丸ごと口にしているのは、綾南署名物のドジョウ汁。今年で二十七回を迎えた綾南ボランティア協議会(越智繁明会長)による暑気払いを兼ねた署員激励の一こまだ。

 ドジョウ汁。野菜や油揚げなどたっぷりの具と塩を使わないで打ったうどんをみそ仕立てにした讃岐の郷土料理「打ち込みうどん」の応用編。井手ざらえなどと呼ぶ農作業などで捕れたドジョウを地域で料理し、親ぼくを図ったのが起源とされている。

 「子供のころはフナ、カラス貝、タニシなどがいっぱい捕れた。なかでも隣近所で囲むドジョウはごちそうやった」「"ドジョウは稲の花を食べて大きくなる"といわれ、夏場から秋口がうまかった」と話すのは、打ち込み用のうどんを打ってくれた綾南町さぬきうどん研究会の薮下敏和さん(71)らのメンバー。

 大なべを炊く会員たちが口々に、ドジョウ汁への思い出を語る。とりわけ男たちの思い入れは深いようだ。「農作業や地域行事の一環として男たちが支えてきた料理。こうして皆で炊いていても一人ひとり微妙にやり方が違う。きょうはだれの仕切り、と決まっていれば口出しはしないのが流儀」と話すのは越智会長(60)。

 郷土料理とはいえ不思議なのは伝承地域が限定されている点。宇多津町を除く綾歌郡五町と香川、香南、三木、長尾、寒川町くらい。地図でいえば県土のヘソ部分、河川の中流域にあたる穀倉地帯という共通項が見えてくる。明快な回答はみつからなかったが、豊富にドジョウが捕れた地域に発達したことは間違いなさそうだ。

ドジョウ汁を食べる習慣のある市町
ドジョウ汁を食べる習慣のある市町

 かつては農業用水などで"掘る"といって、いくらでも入手できたドジョウだが、今はタイにも勝る高級魚と知る人は少ないだろう。県魚市場によると、県内に出回っている国産物は北海道産でキロ二千七百―三千円、輸入物は中国産で同千五百円程度。梅雨開けから九月までがシーズンで、すべて専門店とスーパー向けという。春のサワラにも匹敵する"高級魚"といわれるゆえんだ。

 これまでは「おじょもまつり」(飯山町、昭和六十一~平成七年)、今は長尾町の「どじょ輪ピックin長尾」(平成七年~)がドジョウ汁の味比べを楽しむイベントとして郷土の味普及に一役買っている。

 綾南町は、自治公民館の世代交流事業として郷土料理伝承に取り組んでいる。「ソフトボールで呼び掛けても集まらないが、ドジョウ汁といえばサッと三世代の二、三十人は集まりますよ」と同町担当者。

 新たな形の"連帯の味"が受け継がれていくに違いない。

レシピ
レシピ
 材料
 ゴボウ、タマネギ、サトイモ、ニンジン、太ネギ、ナス、豆腐、油揚げ、打ち込み用うどん、煮干し、昆布、ニンニク、リンゴ、合わせみそ、日本酒
 調理法 (1)煮干し、昆布は水から浸し、ニンニク、リンゴも丸ごとだし袋に入れて煮出す(2)タマネギ、サトイモ、ニンジンなど固い材料から入れ約2時間煮る(3)ドジョウは塩もみして、ぬめりを取り日本酒を飲ませる(4)合わせみその半量、ドジョウ、打ち込み用うどんを入れる(5)炊き上がる直前に残った合わせみそ、ササがきにしたゴボウ、太ネギを散らす

文・岩部 芳樹(西讃支社)写真・久保 秀樹(写真部)