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嫁入りのおいり(西讃) 親心託す幸せの菓子
丸くて、彩り豊かな「おいり」。西讃では、古くから婚儀に欠かせない菓子として多くの人に配られる
丸くて、彩り豊かな「おいり」。西讃では、古くから婚儀に欠かせない菓子として多くの人に配られる
 パッと箱を開けると、色鮮やかな丸い粒が目に飛び込む。赤、白、ピンク、黄、緑…。口に含むとフワッと溶けてしまうような、ほんのり甘くて、柔らかい食感の餅(もち)菓子、それが「おいり」。西讃の花嫁にとっては欠かすことのできない“嫁入り道具”の一つで、全国でも他の地域には見られない独特の風習だ。

 おいりを持って嫁ぐのには、婚家の一員として「心を丸く持って、まめまめしく働きます」との意味が込められている。婚礼の際、お嫁さんのお土産として、近所の人たちや花嫁を見に来た子供たちに配ったりするほか、披露宴の引き出物にもつけられる。一部の地域では「着物をこしらえる数を減らしてでも、おいりは持っていかないと恥ずかしい」と言われるほどで、まさに、西讃の婚儀は「おいり」に始まり「おいり」に終わると言っても過言ではないだろう。

 そんな風習の由来は、一五八七年ごろにさかのぼる。丸亀城主生駒親正公の姫君のお輿(こし)入れの際、領下の郡家の農家の人が五色の餅花で作ったあられをお祝いに献上したところ、たいそう喜んだというのが始まり。以来、婚儀の折には、おめでたい「お煎(い)りもの」として

 広く一般に知れ渡り、嫁入りの「入る」と火で「煎る」とをかけて「おいり」と呼ばれるようになったとか。

 かつて紅白二色だったといわれる色数も、現在では五色が主流。巷(ちまた)では「おいりがきれいだと花嫁さんもきれい」と言われるだけに、「七色のレインボーカラーを採用し、日々割れにくくて、美しいおいり作りに努力しています」と語る山下おいり本舗(高瀬町)の店主・山下光信さん(61)。一見、簡単に作れそうなイメージだが、「あらゆるお菓子の中で、最も手間が掛かる」という。では、早速その工程を追跡してみよう。

餅が熱いうちに、手早く麺棒で伸ばす
餅が熱いうちに、手早く麺棒で伸ばす
伸ばした生地を広げて天日干し。手前は采の目に切ったおいりの原形
伸ばした生地を広げて天日干し。手前は采の目に切ったおいりの原形
一色ずつ色粉を入れて、むらなく色付け
一色ずつ色粉を入れて、むらなく色付け
 まず、餅米を一晩水に浸し、蒸し上がったら砂糖を混ぜて石臼(うす)に入れ、杵(きね)でつく。白い湯気をたてた餅に米糠(こめぬか)をふり、熱いうちに麺(めん)棒で手早く平らに伸ばす。長さ約三メートルの生地ができると、すぐさま屋外に並んだ網箱に広げて乾燥。天日にさらす時間は季節や天候によって変わるが、二、三時間から一日がかり。乾いたら、五ミリ四方の采(さい)の目に切り、再び乾燥させて釜で煎る。一分もたたないうちに、四角い生地は丸くふくらみ、真っ白な“真珠”に大変身。味付け色付けして乾いたら、可憐(かれん)なお菓子のできあがり。なんと、完成までに要する期間はおよそ一週間。

挙式当日、嫁ぎ先では近所の人が詰めかけ、花嫁のお披露目が行われる=高瀬町、豊岡文仁さん提供
挙式当日、嫁ぎ先では近所の人が詰めかけ、花嫁のお披露目が行われる=高瀬町、豊岡文仁さん提供
 職人の技と心を凝縮させ、手間暇掛けて生みだした「おいり」は、現在、結婚のほか、出産や初節句、新築祝いなどとしても幅広く用いられている。中でも、おいりが各種メディアで注目された十年ほど前からは、「美しくて珍しい」と珍重され、県外の花嫁のほか、企業や老舗料亭などからの引き合いが急増。「県外向けが売り上げの二、三割を占めるまでに広がった」。

 今や、一地方の文化が全国へと発信されて各地に根を下ろすという、情報化の進展が生んだボーダーレス時代。山下さんは「地元では当たり前の風習だが、全国では香川の西部地域にだけ伝わる文化。貴重性を発祥地の人々に再認識してもらい、後世にまで残してほしい」と力を込める。

 人々の生活の中で培われ、幾世代にも受け継がれてきた幸せのお菓子。一粒一粒に、いつの時代も変わらぬ繊細な娘心と喜びに満ちた親心が込められているからこそ、光り輝き、人々の目に鮮やかに映るのだろう。

 あなたの結婚への想(おも)い、幸せ運ぶ「おいり」に託してみませんか―。

文・荻田 晃子(観音寺支局)  写真・山崎 義浩(写真部)
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