ホタル(県内一円)

2000年6月19日

人と共生、自然の使者

農業用水沿いに光の帯を描くホタルの乱舞。夏の夕、少年たちとの相性は抜群だ=満濃町内
農業用水沿いに光の帯を描くホタルの乱舞。夏の夕、少年たちとの相性は抜群だ=満濃町内

 淡い黄色の光が明滅する。生い茂る夏草に宿ったかと思えば、宙に舞い、ツツーと急降下の後、水面をかすめる。まるで燃え尽きる線香花火のような落花の舞い。満濃町の小川沿いに光の帯を描くのは、数千匹のホタルの乱舞だ。

 「昔なら当たり前の光景。でも、今は場所を明かすのも、はばかられる。できれば大勢で楽しみたいんだが、乱獲が目に見えているんでね」。久々のホタルの乱舞に目を細めるのは同町土地改良区理事の今井清一さん(64)。

 今井さんによると、昔ながらの井手(農業用水)が、基盤整備工事やコンクリート化の波にのまれず、辛うじて残ったのが、ホタル乱舞の要因という。常時、水を絶やさず、すみかとなる草の刈り取りを控えるなど住民の意識の向上もあると話す。

成虫となったホタルの命は約2週間。草の葉などにたまった露をなめて、神秘の光を放つ
成虫となったホタルの命は約2週間。草の葉などにたまった露をなめて、神秘の光を放つ

 県内で見られるホタルは大別して大型のゲンジボタルと小型のヘイケボタルの二種。郷愁を持って語られるのはゲンジボタルだ。

 六月中旬に川岸の草やコケに五百―八百個を産卵。七月中旬に孵化(ふか)して水中に入り、カワニナなどをエサに成長、冬を越す。越冬した幼虫は、桜の開花するころ雨天で気温が高い無風時に上陸。川岸の土中に潜って土繭(まゆ)をつくり、四十日ほどでサナギとなる。その後、約十日で羽化し、光の乱舞を見せてくれるのは、二週間ほどしかない。

 「やはり自然の魅力が一番。当初は光跡を狙っていたが、今は接写に凝っている」と話すのは高松市亀阜町の井上英夫さん(76)。井上さんは写真歴十三年。定年後の趣味が高じ、七年前からはホタルを撮り続けている。先の「第六回ほたるの里しおのえフォトコンテスト」でも入賞を果たした。

 悪天候以外は毎晩、県内のスポットを歩くという井上さんの作品は、水辺の雑草にとまった二匹のホタルが自ら放つ光に浮かび上がり、見る者を幻想の世界へ誘う。

ホタルの自然発生の有無と育成グループの有無。10日までに、本社取材で確認できた市町をマークした。今年は中讃地域で多くの発生情報が寄せられたが、東讃はやや少なかった。
ホタルの自然発生の有無と育成グループの有無。10日までに、本社取材で確認できた市町をマークした。今年は中讃地域で多くの発生情報が寄せられたが、東讃はやや少なかった。

 コンテストを主催する塩江町温知会は、ホタルの繁殖を通して町おこしを続けている四十人ほどのグループ。二十五年間の活動で現在、同町の看板となっている町立美術館(ほたるの里美術館)やホタル水路、香東川自然護岸などの実現を支え、県内外に知られる存在だ。

 「最初は寂(さび)れる温泉町の観光起爆剤にと思い立った。飼育法も分からず、手探り。何度も棒を折りかけたが、あの神秘の光に魅せられてこれまでやってきた。せめてホタルが住める環境で子供たちを育ててやりたい」と話すのは、会長の松岡耕三さん(51)。

 松岡さんによると、ホタルはとても人間くさい生き物という。自然がいっぱいの未開の原野には、さぞ大量発生しそうだが、ホタルのエサとなるカワニナは人間の生活排水などがなければ育たない。食物連鎖だ。気温、水温、水質など幾つもの条件をクリアして最も住みやすいのが、人間の隣ということらしい。

ホタルによる町おこしイベントとして第19回を迎えた塩江ホタルまつり。毎年、約1万人でにぎわう=塩江町安原上東
ホタルによる町おこしイベントとして第19回を迎えた塩江ホタルまつり。毎年、約1万人でにぎわう=塩江町安原上東

 「支え合う存在。共生。つまりどちらかが欠ければ異常のシグナルなんだ。身近な川に目を向けたり、生活排水に気をつける。自然や川は大きな輪(エコサイクル)だということを、ホタル飼育とともに子供たちが学び、次の世代へつなぐ。そんな地道なネットワークを小学生たちと広げていきたい。懐かしむのではなく、居て当たり前の存在になる日が夢」。

 松岡さんたちの活動は、二十一世紀の生き方をほのかなホタルの灯(ひ)で指し示している。

文・岩部 芳樹(西讃支社) 写真・鏡原 伸生(写真部)