カンカン石(坂出市など)

2002年1月21日

石器が心癒す楽器に

 ステージを照らす淡い光の中、カンカン石の澄んだ音色が立ち上がる。世界的な打楽器奏者ツトム・ヤマシタ氏が坂出生まれのサヌカイト楽器を演奏するコンサート。重厚感あふれる低音域から一点の曇りもない高音域まで、さまざまな表情を見せる。その神秘的な音色は、約二時間にわたって満場の聴衆を魅了し続けた。

サヌカイト楽器を演奏するツトム・ヤマシタ氏=県民ホールアクトホール(2001年12月19日)
サヌカイト楽器を演奏するツトム・ヤマシタ氏=県民ホールアクトホール(2001年12月19日)

 「心を洗う古代の音色」「夜空の星が瞬く音」「天使が祈りをささげる音」…。カンカン石が紡ぎ出す音の表現は、人それぞれ。楽器として誕生以来、その音は世界の名だたるミュージシャンをはじめ、多くの人たちをとりこにしている。

 県民には「カンカン石」、国際的には学名の「サヌカイト」の名称で広く知られているこの石。ドイツ人地質学者のバインシェンクが、同じくナウマンから音の出る石としてカンカン石を提供されたのをきっかけに、香川で調査・研究を進め、一八九一年に学会で「サヌカイト(讃岐岩)」として紹介したのがその始まりとなっている。

 カンカン石のルーツは、約千三百万年前、瀬戸内海に沿った地域で起こった火山活動にさかのぼる。

 五色台や屋島、飯野山など各地で大爆発があり、真っ赤な溶岩が地表の軟らかい所を破って流出。地表で急に冷え固まった溶岩は小さい粒(結晶)の岩石となり、ゆっくり固まったものは大きな粒の岩石となった。

地表を覆うカンカン石。古代人に石器として使われた道具が、今は心癒す楽器として注目を集めている=坂出市の金山中腹
地表を覆うカンカン石。古代人に石器として使われた道具が、今は心癒す楽器として注目を集めている=坂出市の金山中腹

 カンカン石は急に冷やされてできた岩石の部類に属し、県内では主に坂出市金山、城山、五色台などで産出する。紀伊半島から九州北部にかけても見られるが、音のいい石は金山、城山、国分寺町国分台からしか採取できないそうだ。

 硬くて縦に鋭く割れる性質を持っており、旧石器時代には古代人がその特性をうまく生かして、ナイフや斧(おの)など石器として利用していた。

 カーン、カーンという金属音を出すのは、鉱物の大きさがそろっているから。たたくと音が石の中で反射して強め合い、心地よい余韻を残して響く。

 楽器として加工されるようになったのは、一九七九年のこと。京大の学術調査が中四国一帯の旧石器のルーツを金山と特定したのをきっかけに、金山の持ち主で会社役員の前田仁さん(71)がカンカン石に興味を持ち、サヌカイト楽器を考案した。

 工学、音響専門家らと製作した石琴や磬(けい)などの楽器は、音楽大学などで活用されているほか、国内外の演奏会でも採用。ジャズ界の大御所ライオネル・ハンプトン氏やジャズ歌手のディー・ダニエルさんらそうそうたる音楽家も、コンサートでサヌカイト楽器を起用している。

 ツトム・ヤマシタ氏も、その音色にほれ込んだ一人だ。

 ヤマシタ氏は「たとえ一千万年たっても、サヌカイトの優しい響きは変わらない。まさに音の世界遺産ですね」と絶賛。「演奏しながら自分もサヌカイトの音色に癒(いや)されています」。

サヌカイト楽器の展示施設や演奏ホールがある「磬(けい)の里」=坂出市金山
サヌカイト楽器の展示施設や演奏ホールがある「磬(けい)の里」=坂出市金山

 サヌカイトの振動特性は、低音域から高音域にかけて広い周波数を持つ。「人の耳に聞こえない高い周波数が、癒しにつながっているのではないでしょうか」(前田さん)。

 サヌカイト楽器の音のメカニズムには、まだ解明されていない分野が多数あり、筑波大や電気通信大などが研究を進め、国内外の学会で発表している。

 かつては、生活に欠かせない道具として人々に親しまれていたカンカン石。今後は世界を舞台に、安らぎ、癒しをもたらす楽器としてさらなる飛躍を見せてくれそうだ。

文・末沢 鮎美(生活文化部) 写真・久保 秀樹(写真部)