並み

門入の郷(寒川町)

2001年12月3日

冒険心くすぐる空間

 芝生広場に迷路のお城、石ころの転がるせせらぎ、それに温泉…。圧巻なのは門入(もんにゅう)池から新しく生まれ変わったばかりの門入ダムと水辺の空間だろう。上流の一風変わった赤い橋も私たちの目を引きつける。

門入ダムと水辺の空間。何もない空間から子どもたちの創造と発見が始まる。可能性を秘めた場所は、大人たちにとっても刺激的だ=寒川町石田東、水辺の公園から
門入ダムと水辺の空間。何もない空間から子どもたちの創造と発見が始まる。可能性を秘めた場所は、大人たちにとっても刺激的だ=寒川町石田東、水辺の公園から

 寒川町南部に広がる「門入の郷(さと)」。ここには、自然の空間に人工の構造物が主張しながら点在する。真っ赤な「門入ブリッジ」は周囲の自然に対し、むしろ挑発的でもある。

 「自然との共生」。ありふれた言葉に集約されるが、それが門入の郷のコンセプト。従来のような箱庭的な公園でなく、自由な発想と冒険心で「遊べる空間」を目指しているのが特徴だ。遊具などは何もない。あるのは巨大なアートを連想させる構造物と、それを包み込む自然だけ。規制もまた、何もない。

 「ここにしかない空間で自由な時間を楽しんでもらう。だから、遊び方は工夫次第。バス釣り結構、キャンプも結構。ただ、自然を相手にするからには、常に危険と隣り合わせだということとマナーだけは忘れないでいてほしい」

 同町の蓮井勝義総務課長は水辺の空間から自分で何かを発見し、学んでほしいと言う。それは子どものころ、野山を駆けめぐった思い出、ガキ大将や父親から教わった遊びを、いまの子どもたちにも味わってほしいというメッセージでもある。

8日からライトアップが始まる「光る星たち」。3年目を迎える今年は昨年よりグレードアップし、門入の郷を幻想的な光で彩る(資料)
8日からライトアップが始まる「光る星たち」。3年目を迎える今年は昨年よりグレードアップし、門入の郷を幻想的な光で彩る(資料)

 門入の郷の仕掛け人でもある建築家・多田善昭さんは「自然と構造物。ここではそれらが対立しながら調和する、そんな空間をつくりたかった」と言う。「町花・ヤブツバキをイメージした赤は、緑の自然の中では似合わないかもしれない。だが、非日常的な空間を演出することでかえって自然を際立たすこともできるはず」と明快だ。

 設計に当たっては、木々の一本一本に至るまで図面に描き、建物と自然を配した。木々はやがて大きく成長する。十年後、二十年後も織り込み済みで、自然を育てながら子どもたちの心もはぐくんでいきたい考えだ。

 門入池水利組合長を務める松原茂さん(77)は、近代的に生まれ変わった門入ダムを感慨深げに見る。「土と触れ合うことは子どもたちの人間形成にも役立つはず。ただ、水に苦労した先人の足跡はちゃんと語り継いでいってほしい」と話す。

「椿の城」は巨大な迷路。かつて野山で遊んだ「秘密の要さい」を思い出さずにはいられない。後方は門入ブリッジ
「椿の城」は巨大な迷路。かつて野山で遊んだ「秘密の要さい」を思い出さずにはいられない。後方は門入ブリッジ

 風習や伝統行事が多くを占める「残したい香川」シリーズ。その中で、この門入の郷だけは一九九九年三月、門入ダム竣工(しゅんこう)に合わせてオープンした最も新しいスポットだ。「さぬき市になっても大切にしたい場所の一つ。みろく自然公園から門入の郷、三重の滝、大窪寺に至るルートは新市の立派な観光資源となり得るはず」と広瀬正美寒川町長が力を込めるように、緑のダムを生かしていくのも、これからがむしろ正念場となる。

 水辺の公園に到着するや一斉に駆け出し、でんぐり返った子どもたち。せせらぎの中に沢ガニを見つけて、はしゃぐ子もいた。撮影に付き合ってくれた寒川保育所の子どもたちの姿を見て、このプロジェクトが語り掛けるメッセージは子どもの目線からの方がきっとよく見えるんだ、と感じた。

文・山下 和彦(生活文化部) 写真・鏡原 伸生(写真部)