らし

讃岐弁(県内全域)

2002年5月27日

温和な土地柄を象徴

6月13日の満濃池のユル抜きに備えて地域総出で「井手ざらい」。ちょっと一服する間も讃岐弁の会話が弾む=満濃町岸上
6月13日の満濃池のユル抜きに備えて地域総出で「井手ざらい」。ちょっと一服する間も讃岐弁の会話が弾む=満濃町岸上

ちょっとすまんけど そこ かいていた

何 書くんな?

字 書くんと 違うんじゃのに

ほんなら どこ かくんな?

背中 掻(か)くんとも 違うわい

ほんなら どうせえ 言うんな?

この机の向こう側かいていた 言よんじゃ

かくいうんは 持ち上げる意味かいの

高松市のグラフィックデザイナー藤本誠さんの作品。「方言いうたら、地域独特の文化やし、財産。体温を感じる温か~い言葉や」と藤本さん
高松市のグラフィックデザイナー藤本誠さんの作品。「方言いうたら、地域独特の文化やし、財産。体温を感じる温か~い言葉や」と藤本さん

 ぽっこりした讃岐の山々、温暖な気候に影響されてか、讃岐言葉には丸みを帯びた優しい言い回しが多くある。語調が柔らかく、耳に伝わる語感はどこかユーモラスだ。現代風に言えば、「癒やし系」の言葉なのだろう。穏やかな土地柄と人情、それにお接待の心が言葉の端々に見え隠れする。

 そんな讃岐言葉の代表が「……してください」「……をいただけませんか」の意味に使われる「いた」と「つか」。それぞれ、「頂く、頂きたい」「遣わされ」の省略で土器川を境に東側が「いた」、西側が「つか」。分かりやすく言えば、旧松平藩が「いた」で旧京極藩が「つか」。県内は「いた」文化圏と「つか」文化圏に大別できる。狭い香川でも土地柄や人々の暮らし、歴史的背景を短い言葉の中に、見事に反映しているから面白い。

 そんな讃岐の方言に魅せられて三十年あまり讃岐言葉を収集、研究している国分寺町の塚田教一さん(74)によると、「香川の言葉の特徴として、まず挙げられるのは上方の古い言葉(上代・中古・中世・近世)が多く残っていること」だと指摘する。アクセントも京阪型で、東京型のように言葉の頭ではなく、中ほどにアクセントがあるのが特徴だ。

 古語の流れが多い理由として、塚田さんは宗教的影響が大きかったのではと考える。ご存じ、善通寺は空海誕生の地であり、四国八十八カ所めぐりなど、香川には全国からお遍路さんが訪れた。お遍路さんと土地の人々がお接待を通じて交流、言葉が混じり合って定着したというのだ。

昭和30年ごろの井戸端風景。話し言葉である方言は家族や農村社会を形成する上で必須のアイテム。こうして家族や地域のしきたりを学び、気取らない人間関係を築いていった(資料)
昭和30年ごろの井戸端風景。話し言葉である方言は家族や農村社会を形成する上で必須のアイテム。こうして家族や地域のしきたりを学び、気取らない人間関係を築いていった(資料)

 江戸期、盛んになった金毘羅参りの影響も大きく、大坂(大阪)を出発した金毘羅船は人だけでなく、上方の多くの言葉も運んできた。現在も香川だけに残る言葉、他地域では意味が異なったり、通じない香川独特の言葉は五百語あまりを数えると塚田さん。

 そんな言葉もメディアの発達で、どんどん老人語化。「日常使う人々が若年層を中心にめっきり減ってきている」と危機感を募らせる人がいる。

 満濃町岸上、「まんでがん母さん」こと、馬場俊江さん(64)もその一人。「核家族化で身近に方言と接する機会が減っとんが原因やろな。私の讃岐弁はどっちか言うたら、汚い言葉やけど、自分をさらけ出す飾り気のない言葉じゃわな。ほんだけど、讃岐弁いうたら、ふるさとのぬくもりがあって、相手を気遣う気持ちのこもったええ言葉や思うけどな」。

 そういえば「なんがでっきょんな」は言外に「お元気ですか」の意味を含んでいるし、「ほんだら」は「それではさようなら、元気でね」の意味が込められたあいさつ語だ。そういった土壌、共通認識は長年にわたって、知らず知らずのうちにはぐくまれてきた。

 「方言はふるさとの顔であり、心。若い人にも堂々と讃岐の言葉を使ってほしい」と塚田さん。地域の言葉・方言からはその地域固有の文化と歴史、地域社会の素顔が見えてくる。

文・山下 和彦(生活文化部) 写真・久保 秀樹(写真部)