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| 県内では珍しい豊作を祈る造田神社の釜鳴り神事=長尾町(1970年ごろ) |
長尾町には、正月の三味線もちつき(長尾寺)、春の鎮花祭(宇佐神社)、秋のあばれみこし(塚原稲荷神社)など、四季を彩る祭りや風習が今も多く残っている。
同町造田地区に周囲の田畑を見渡せるこんもりとした小山がある。そこに、古くからこの地域の氏神さまとして親しまれている、造田神社(三好征太呂宮司)が立つ。
この神社の春市は毎年五月三日に催され、「釜(かま)鳴り神事」として知られる。この神事は、三つの釜の鳴り響く音でその年の作物の出来具合を予想する県内で唯一の珍しい神事だ。
町史などによると、この神事は、九四七年(天暦元年)に同神社を現在の地に移す際、吉凶を占ったのが始まりと伝えられている。
終戦直後から高度経済成長の時代にかけて、この神事も忘れられかけていたが、一九七五年ごろから復活。マスコミなどでも取り上げられ、この農村地域独特の伝統行事を楽しみに、大勢の参拝者や観光客らが再び詰めかけるようになった。
「一時期は、人もまばらで、雨が降るとすぐに取りやめになったりしていた。心の時代が叫ばれるようになったころから、地元の風習を見直すような機運が生まれた」とこの地域の古老は話す。
現在は、一九九七年に創建千百十一年を記念して建立した斎場で神事が営まれているが、それまでは、本殿西側の掘り抜き井戸に設けられた吹きざらしの祭殿で行われていた。敷きつめたござに神官がすわっての祭りは、農村の原風景を演出していた。
神事は毎年、造田小学校六年生四人が「釜よどうぞ鳴りたまえ」との願いをこめて浦安の舞を奉納。その後、沸騰する大小三基の釜に洗米を入れた甑(こしき)と呼ばれる円筒状のせいろを乗せ、数分間待つ。
宮司がころあいを見てせいろのふたをずらすと、吹き出す湯気で三つの釜がホラ貝のような美しい音を境内に響かせる。
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| 祭りに花を添える浦安の舞=長尾町、造田神社(資料) |
その「ボー」という霧笛のような音の大きさによって、宮司が「吉」とか「大吉」とかのご託宣をする。そして「草も木も同じ恵みの時を得て、野山の春は風ののどけし」などと和歌で例え、その年の運勢を披露する。
この釜でたかれるご飯は「御炊米(みかしぎまい)」といい、これを食すると無病息災、厄よけ開運につながるともいわれている。
「五月の最初に釜鳴り神事が営まれたのは、播(は)種の時期に当たったから。昔は、農村地帯に季節感があった。物質文明に支配された今の時代に、この催しは、自然に対して謙虚でなければいけないという警鐘にもなっている」と三好宮司。
「幸い氏子さんも協力してくれているので、伝統を守っていくのが使命だと考えている」と熱っぽく語った。
文・木下 亨(地方部)
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