相模坊天狗伝承(坂出市)

2001年2月5日

崇徳上皇の霊を守る

天狗まつりの準備に追われる相模坊社=坂出市大屋冨町
天狗まつりの準備に追われる相模坊社=坂出市大屋冨町

 赤い顔をして鼻が大きく、羽うちわを使ってどこでも自由に飛び回る深山の怪物である天狗(てんぐ)は、どこか愛きょうがあって、逸話も多い存在として、古くから民衆に親しまれてきた。

 坂出市から国分寺町、高松市へと香川の北部を東西に連ねる五色台は、霊場として古くから開かれた連山である。

 その五色台の白峰山の守護神として君臨してきたのが、地元で愛着を込めて「さがん坊はん」と呼ぶ相模坊天狗だ。

 白峰山の相模坊天狗は、「保元物語」「雨月物語」「源平盛衰記」など多くの文献に登場。鞍馬山の僧正坊(京都)、相模大山伯耆坊(神奈川)などと並ぶ、日本の八天狗として名高い。

 相模坊天狗と崇徳上皇との結びつきは深い。一一五六年(保元元年)、皇位継承への確執から保元の乱がぼっ発。戦いに敗れた崇徳上皇が西海の国、讃岐の松山に流され、八年後、同地で不遇のうちに四十六歳の生涯を終える。

 白峰山の相模坊が天狗界で隠然たる地位を確保したのは、崇徳院が亡くなってから、ひたすら院の霊前につかえ霊を慰め、白峰の霊域を守護し、今も守り続けているからだとされている。

恒例となった坂出天狗まつりの主役・天狗たちは、天狗うどんとともにイベント会場で大人気(資料)=坂出市、松山小
恒例となった坂出天狗まつりの主役・天狗たちは、天狗うどんとともにイベント会場で大人気(資料)=坂出市、松山小

 坂出市大屋冨町の「相模坊社」は、木像の鴉(からす)天狗一体があり、昔から毎年二、四月に地元では「鼻の市」と呼ぶ例祭が催され、木像がご開帳されるなどして、大勢の参拝者でにぎわってきた。

 この歴史に彩られた相模坊天狗をキャラクターとした街づくりイベントができないものか、と坂出市と地元の松山地区がスクラムを組んで始めたのが二月の第二土、日曜日に開催される「坂出天狗まつり」だ。

 このまつりは、今年で十一回目を迎える。まつりの呼び物は、松山小学校を出発し五色台の白峯寺までを往復するテングウオーク(一〇・九キロ)、瀬戸大橋の絶景をながめながら海岸沿いを走る坂出天狗マラソン。特にマラソンはここ数年、中四国を中心に全国から千人を超えるランナーが参加、健脚を競っている。

悲運の生涯を閉じた崇徳上皇が眠る白峯御陵=坂出市青海町
悲運の生涯を閉じた崇徳上皇が眠る白峯御陵=坂出市青海町

 これらの参加者に評判なのが、松山地区婦人会などが接待している天狗うどん。天狗にちなみ、地元特産の金時ニンジン、シイタケ、ダイコンなど十種類の具を炊き込んだ白みそ仕立ての特製うどんで、寒風にさらされるランナーの心も体も温めている。

 実際、マラソンの参加者へのアンケートには「おいしいうどんが楽しみ」「天狗うどんの接待がありがたい」―などの意見が多く寄せられている。

 同会前会長の高橋房子さん(76)は、このうどんの考案者の一人。「天狗は精進料理しか食べないことから、地元特産の野菜のみを使った低カロリーで栄養たっぷりの汁を、とみんなで何回も試作した。多くの人たちが喜んでくれて、やりがいがある」と話している。

 今年のまつりは十、十一日に開催。婦人会総出で四千食近い天狗うどんが振る舞われる。うどんの湯気とともに、婦人たちの優しい心も立ちこめるにちがいない。

文・木下 亨(地方部) 写真・鏡原 伸生(写真部)