金刀比羅宮 美の世界

題字・米今正一

第31話

文化的魅力の結節点

町中の人々が支え手に

文化庁長官・河合隼雄

 さぬきのこんぴらさん、の名を知らない人は、まずないことだろう。あの長い石段を登ってのこんぴら参り。それに最近は、こんぴら歌舞伎も有名になった。

こんぴら歌舞伎では、役者陣が顔見せする「お練り」も名物。琴平の町が歌舞伎一色になる=2002年4月5日、中央は座頭の片岡仁左衛門さん
こんぴら歌舞伎では、役者陣が顔見せする「お練り」も名物。琴平の町が歌舞伎一色になる=2002年4月5日、中央は座頭の片岡仁左衛門さん

 私も、一度はこんぴら参りをしたい、と願っていたが、文化庁長官になってそれを果たすことができた。長官になって、日本の各地域の文化に接すると共に、新しく制定された「文化芸術振興基本法」に基づき、文化の振興を行うことについて、直接に各地域の人々と話し合うという趣旨で、文化芸術懇談会というのを日本の各地域で行うことにした。その第一回を、香川県で行い、その機会に、こんぴら参りができたのである。

 それ以後、文化芸術懇談のために日本中をあちこちと回り、各地のいろいろな文化に接して感心しているが、何しろ、金刀比羅宮参りは第一回のことであり、しかも、こんぴら歌舞伎を見ることもできたので強く印象に残っている。

 金刀比羅宮に参詣して、いろいろと説明をしていただいた。今まで寡聞にして知らなかったが、実に豊富な文化財に満ちているのに驚いてしまった。まず、何と言ってもこの神域全体のもつ奥深い神々しさ。おそらく、この山全体が尊崇の対象だったのではなかろうか。そこに、あの有名な石段があり、そこを登りつめたところにある建造物群が実に素晴らしい。

 重要文化財である表書院、奥書院。それに円山応挙の襖絵がこんなにもあるとは、驚きである。その上、日本の洋画の先駆者である高橋由一の多くの絵も展示されている。

 収蔵されている、書画、刀剣、甲冑、古文書などなどの資料は、まったく数え切れないものがある。

約100年ぶりに金網が撤去され、鑑賞しやすくなった表書院の円山応挙「竹林七賢図」
約100年ぶりに金網が撤去され、鑑賞しやすくなった表書院の円山応挙「竹林七賢図」

 これに加えるに、こんぴら歌舞伎の魅力もたいしたものだ。私にとって印象的だったのは、それを支える文化ボランティアの素晴らしさである。町中の人々が、こんぴらの文化を守るために力を結集している感じがする。

 文化とは、何もいわゆる芸術のみを指すのではなく、人間の生活全体にかかわることだ。食事も大切な文化である。そんな点で、私はもともと、うどんが大好きなので、ここにさぬきうどんも、こんぴら文化の支え手として、ぜひあげておきたい。

 こうして並べてくると、まさに、文化の総合的魅力の結節点としての「こんぴら」というものが浮かびあがってくる。その中心に、金刀比羅宮があるのは言うまでもない。文化の結節点から日本中、あるいは世界への発信が期待されるのである。

(2003年11月2日掲載)

文化庁長官・河合隼雄氏

かわい・はやお 1928年兵庫県生まれ。京都大学卒。高校教師を経て、チューリヒのユング研究所で学ぶ。京都大学、国際日本文化研究センターで教授を歴任。日本のユング派分析の第一人者。著書に「昔話と日本人の心」(大仏次郎賞)、「明恵 夢を生きる」(新潮学芸賞)など多数。95年紫綬褒章。2002年1月から文化庁長官を務める。

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