金刀比羅宮 美の世界

題字・米今正一

第18話

股旅姿のこんぴらまいり

浮かれ、はしゃぐ7人衆

漫画家・やなせたかし

 観光香川のPRのために、瀬戸大橋の完成が間近という時、県の観光協会の招待で現地へ行くことになった。一行は漫画家の絵本の会のメンバーで手塚治虫、馬場のぼる、前川かずお、永島慎二、多田ヒロシ、柳原良平、ぼくの七名であった。

参拝記念にやなせさんら7人が残した寄せ書き
参拝記念にやなせさんら7人が残した寄せ書き

 七人のうち手塚、馬場、前川の三人は既に故人になっている。痛痕限りない。

 人生茫々、あんなに元気で、あんなにはしゃいで、そして比類のない天才で誰にも好かれていたのに、敬愛していた懐かしい友は、はるかな国へ旅立ってしまった。

 ぼくはまだ生きていて、アンパンマンを描いたり、こんな思い出の文章を書いている。なんだか心が感傷的になってくる。

 個人的なノスタルジーはさておくとして、心はずませて現地についたぼくらは最初からびっくり仰天! 口あんぐり!

股旅姿で参拝する漫画家の絵本の会のメンバー(1985年3月12日)
股旅姿で参拝する漫画家の絵本の会のメンバー(1985年3月12日)

 なんとそこには、股旅スタイルの縞のカッパに三度笠、長脇差しが一式用意されていて、あっという間に"森の石松こんぴら代参"に変身させられてしまったんですね。

 「なんだこれは? この格好で歩くのは、はずかしいなぁ」なんて言っている暇もなく、ぼくらは三味線演奏のお姐さんに先導されて行進した。

 黒山の群集は目ひき袖ひき大笑いである。

 漫画家という職業の大変に辛いところで、漫画家は決して大衆芸能人ではない。知的職業であって、素顔は一部を除いては地味で含羞の常識人が多い。

 しかし世間では漫画家はすべておかしい人と錯覚している。その期待を裏切るのも申し訳ないから、いやいやながらもニコニコして三味線にあわせて踊っているうちに、いつのまにかすっかりその気になってしまって、ますます誤解されることになる。身から出た錆で仕方がない。

 御本殿参拝というので、一行は琴平山名物の観光駕籠に乗せられて大はしゃぎ!

 それはいいのだが、多田ヒロシは身長一メートル八〇センチの大男だから、駕籠かきがへたばってしまって「旦那おもいなぁ。勘弁してくださいよ」と泣き出してしまった。

 石段の途中から徒歩で登ったが、なにしろ仕事場でペンより重いものは持ったことがない軟弱な連中だから、七百八十五段登りきった時は青色吐息、絶命寸前の惨状だったが、何とか無事に参拝をすませた。讃岐平野を眼下に一望する高台は清浄な山気の涼風さわやかに吹きぬけて、たちまち元気回復して用意されたパネルに約一時間で「こんぴら参り今昔」をテーマにした漫画を描いた。ぼくはおむすびまんを描いたのかな? 記憶は既におぼろである。

 参拝客の中に幼稚園の若い保母さんがいて汗にしめったシャツの背中にアンパンマンをと請われて描いたのも、今は懐かしい思い出。現在ぼくが元気で仕事していられるのもこんぴら参りのおかげかもしれない。

(2003年8月3日掲載)

漫画家・やなせたかし氏

やなせ・たかし 1919年高知県香北町生まれ。日本漫画家協会理事長。「詩とメルヘン」編集長。アンパンマンミュージアム名誉館長。90年に日本漫画家協会賞大賞を受賞したほか、勲四等瑞宝章(91年)、高知県特別県勢功労賞(2002年)。主な作品に「やさしいライオン」「ボオ氏」など多数。「手のひらを太陽に」などの作詞も手掛ける。

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