金刀比羅宮 美の世界

題字・米今正一

第1話

庶民信仰と象頭山

豊かな文化この地から

 道は人を運び、文化をも運ぶという。讃岐の道は「こんぴら」に通じる。かつて県内の主要な街道筋は、ここ、琴平の地で交わった…。

 江戸時代から多くの庶民信仰を集めた金刀比羅宮は、「さぬきのこんぴらさん」としてだけでなく「四国のこんぴらさん」として、「お伊勢参り」と並び、全国から羨望(せんぼう)のまなざしで見つめられ続けた。瀬戸内海からでも遠く、くっきりと見える名勝・象頭(ぞうず)の山懐に抱かれた同宮。そこは、信仰の対象であるとともに琴平山文化をはぐくんでいった。

葺き替え工事が完了した本宮拝殿
葺き替え工事が完了した本宮拝殿

 境内には表書院、奥書院、旭社といった国の重要文化財に指定されている建造物が三棟。一八七八(明治十一)年に改築された本宮や一九〇五(同三十八)年に丸亀・広島産の青木石を使って建てられた宝物館など、由緒ある建物が並ぶ。

 南北朝時代の作とされる「なよ竹物語絵巻」(重要文化財)、円山応挙(一七三三―九五年)の「瀑布(ばくふ)及山水図」(同)をはじめとする美術工芸品も優に三千点を超えており、日本洋画界の黎明期(れいめいき)を支えた高橋由一(一八二八―九四年)の絵画コレクションに至っては二十七点と、全国屈指の規模を誇る。

檜皮(ひわだ)葺き替え工事の様子
檜皮(ひわだ)葺き替え工事の様子

 そんな金刀比羅宮でいま、二〇〇四年九月の「平成の大遷座祭」へ向けて、大規模な「ニューこんぴらさん」計画が進行中だ。旭社から本宮までを信仰の中心となる「神殿ゾーン」、それより下の宝物館や書院、現在の社務所周辺を「文化ゾーン」として再編整備する計画。二十一世紀の庶民信仰と文化の核となる基盤が、徐々にではあるが私たちの前に姿を見せ始めている。

 一九七一(昭和四十六)年以来、三十三年ぶりとなる遷座祭。本来は風雪に耐えた本宮の屋根の葺(ふ)き替えを中心とする"若返り"工事が主だった。今回はそれに加えて、現在の社務所とご神札授与所を統合して本宮周辺に新築するほか、神楽殿や絵馬殿も移転。大規模な"リニューアル"工事になっている。

象頭山と金刀比羅宮
象頭山と金刀比羅宮

 既に金毘羅庶民信仰資料収蔵庫には、由一コレクションを常設展示する「高橋由一常設室」がオープン。表書院も改修が終わり、応挙の障壁画がぐっと身近に鑑賞できるようになっているほか、宝物館も改装が終了している。

 遷座祭まで、あと一年半。ひと足早く、古きよき日本人の心が残る金刀比羅宮の美の世界、豊かな感性をはぐくんだ琴平山の文化の扉をそっと押し開けてみたい。

(2003年4月6日掲載)

◆遷座祭は社殿や調度を新たにする期間中、祭神を本殿から仮殿、再び本殿へと移す儀式。金刀比羅宮では2004年6月18日に仮殿遷座、同年9月17日に本殿遷座が営まれる。このシリーズでは、同宮が所蔵する美術工芸品の数々と、それにまつわる話などを国内第一級の研究者らの文章とともに紹介していく。

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