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| 若冲の部屋から眺める讃岐平野と飯野山。自然の風景も芸術の一部だ |
大阪ミナミ。たこ焼き屋と焼き肉屋とアダルト映画館とゲームセンターにはさまれたところに、吉本興業本社ビルがある。この中に“笑いのメッカ”難波グランド花月劇場があって、毎日、おびただしい客をのみ込んでは吐き出している。
このエスニックで雑然とした雰囲気が大阪の元気の源であり、笑いと食という大阪独特の文化を育んできた苗床なのである。
もう十年近く前になる。ぼくはフジテレビから吉本興業に転職したばかりで“ひねた新人”といわれていたのだが、本社ビルの前に新しいビルを建設することになり、地鎮祭が執り行われた。その席で、金刀比羅宮の琴陵容世宮司と科野齋権禰宣にはじめてお会いした。もともと金刀比羅宮所有の土地を吉本が譲り受けたというご縁があったからだ。
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| 大阪府立上方演芸資料館・ワッハ上方の外観(同資料館提供) |
社会に貢献するためにこの土地を有効に使うという約束だから、完成した新ビルには、上方演芸資料館と「ワッハ上方」と名付けられた演芸場がある。
数年後、金刀比羅宮のリニューアルに文化顧問として参加している美術家の田窪恭治氏の招きで、金刀比羅宮を参拝する機会に恵まれた。
大きな森にすっぽり覆われた“こんぴらさん”は、自然と共生しながら海の神様として庶民から信仰されつづけてきた歴史と伝統の重みを、じつにさりげなく温かい雰囲気の中に包みこんでいた。
度肝を抜かれたのは、所有する文化財の豊かさだ。もちろん、“こんぴらさん”そのものが貴重な文化財なのだが、まさに美の巨人なのだ。
美術館巡りが趣味のぼくにとっては、はからずも宝の山に巡りあったという感じだった。明治時代の洋画の奇才・高橋由一の二十七点のコレクション。重要文化財に指定されている表書院にある円山応挙の「遊虎図」「遊鶴図」の前で、しばらくの間動けなかった。
幸運なことに、ふだん公開されていない奥書院も見せてもらうことができた。岸岱の描いた柳、菖蒲、松それに群蝶図にも息をのんだ。
だが、なんといっても大感激したのは、伊藤若冲の「百花の図」をじっくり眺められたことだ。すこし色褪せてはいるが、金地に色とりどりの草花が壁いっぱいに広がり、部屋の小ささをまったく感じさせない。
がらりと障子を開ければ、庭園が広がり、赤松の枝のはるかかなたにぽっかりと讃岐富士(飯野山)が浮かんでいる。若冲の部屋と讃岐富士の姿が、まったくなんの違和感もなく繋っているのに“こんぴらさん”の底知れぬ知恵を感じた。“こんぴらさん”は、人の心を和らげ、安らぎと癒やしを与えてくれる魂のふるさとなのだと、柄になくそっと手を合わせてしまった。
(2003年11月16日掲載)
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