金刀比羅宮美の世界 題字・米今正一
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第17話 私と応挙の「鶴の間」

優美な静寂宇宙のよう
ファッションデザイナー・鳥居ユキさん
ファッションデザイナー・鳥居ユキ

 ◆とりい・ゆき 東京生まれ。1975年秋、パリコレにデビュー以来、卓越した色彩感覚とエレガントなスタイリングで世界中を魅了。95年史上初の3度目のFEC(ファッションエディターズクラブ)賞と毎日ファッション大賞を受賞。祖母、母から受け継いだブティック銀座トリヰの3代目社長などを務める。著書に「きもの、着ましょ。」。

重文 遊鶴図 円山応挙
重文 遊鶴図 円山応挙

 私が初めて金刀比羅宮を訪れ、この「円山応挙鶴の間」の鶴の襖絵(ふすまえ)に出会ったのは一昨年の七月です。

 京都と琴平にしかない蹴鞠(けまり)の見学に誘われて、「一生に一度はこんぴらさん参り」のつもりで、波が穏やかな瀬戸内海を渡りました。琴平の第一印象は、緑があふれる自然環境がすばらしいこと。長い歴史の中で大切に守ってきた人々の心もまた、あたたかいのだろうと、予感したのを覚えています。

円山応挙鶴の間
円山応挙鶴の間

 御本宮をお参りした後、表書院へ。神職の方に案内されて、静かに引き戸を引くとそこが「鶴の間」で、目の前のほの暗い空間に鶴の襖絵がありました。座って拝見すると、身を寄せ合った二羽の鶴。親子? それとも夫婦かしら。別の襖には、羽を広げて空を飛ぶ一羽が生き生きと描かれています。

 この絵は、決して美術館などの明るい所で観るものではない。二百年あまり昔、応挙が豊かな自然に恵まれた京都で腕をふるって命を吹き込んだ鶴たちが、空を飛んで、ここにやってきたのですから。それをほぼ同じ状態で、今も間近に観ることができる。「はるばる来てよかった」と、つぶやいていました。

 私は幼い時から鶴が大好きです。静かで上品で、しかも華やかなイメージがある。晴れ着の柄や千代紙の折り鶴、「夕鶴」の物語。日本人の遺伝子のせいでしょうか。

鳥居さんデザインの新しい制服
鳥居さんデザインの新しい制服

 そしてまた絵画は、観るのも描くのも大好きなのです。時々、名画集をながめながら、ふと鶴の絵に心をひかれ、鶴が描けたらと思いますがいつもあきらめてしまいます。

 そんな体験を思い出しながらの、応挙の鶴の絵。この部屋は全国から来た諸家の方の控えの間と伺いましたが、優美な静けさと宇宙のような広がりに、客の心も落ち着いたことでしょう。部屋の目的に合わせて鶴を選び、襖を飾った応挙のアートディレクターとしての技量に感心するばかりでした。

 こんぴらさんのリニューアル「平成の大遷座祭」について、琴陵容世宮司の話を伺ったのも、この時でした。翌日、念願の蹴鞠を見学し、初の試みとして、これまで男性だけで奉納していた場を、女性にも与えたと聞き、大変興味を持ちました。改革に同感した私は、宮の女子職員の新しい制服のデザインを引き受けました。緑色と鬱金(うこん)の黄色は、あの美しい自然の森と御守りにも使われている、元気の出る色をイメージした結果です。

 「一生に一度」のつもりが実は、今年の四月にも再訪しました。低くておだやかな丸い山々、一度には見切れないほどたくさんの貴重な美術品の数々、伝統を守る歌舞伎の芝居小屋。とくに応挙の鶴の襖絵は、時を超えて人の心を落ち着かせる魅力が忘れがたいものになりました。四季折々、自然のエネルギーをもらいたい。また、鶴たちに会いたいと思うのです。

(2003年7月27日掲載)


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