金刀比羅宮美の世界 題字・米今正一
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第16話 太平洋をモルツマーメイド号と共に

海洋環境保全の象徴に
ヨットマン・堀江謙一氏
ヨットマン・堀江謙一

 ◆ほりえ・けんいち 1938年大阪市生まれ。54年関大一高入学、ヨット部に所属。62年「マーメイド号」で単独太平洋横断。74年には西回り単独無寄港世界一周。縦回り世界一周、世界初のソーラーボート単独太平洋横断などを成功させ、96年「モルツマーメイド号」で単独太平洋横断。63年に菊池寛賞。著書に「太平洋ひとりぼっち」など。

1998年1月22日、金刀比羅宮で執り行われた奉納式典でモルツマーメイド号と堀江謙一さん

1998年1月22日、金刀比羅宮で執り行われた奉納式典でモルツマーメイド号と堀江謙一さん

 冒険家、海洋冒険家と、人は私のことを呼ぶ。私がヨットとかかわりを持ったのは高校へ入学してから。以来、ヨットで海に出ているとき、航海の計画をあれこれと考えているときが一番楽しいし、幸福感が味わえる。この年になるまで、いつも海と一緒だったと言っていい。そこには自然を征服しようという大それた考えはなく、自然の中でいたい、もっと海や風に身を委ねていたいというのが、私の正直な思いだ。

 しかし、その海も、汚れが目立ってきている。瀬戸内海だけでなく、あの広くて青い太平洋もしかりだ。四十年間に十回ほど、太平洋を航海して、私が強く感じていることだ。「海を汚さない」という人間の意識が高まってきているせいか、近年は以前ほどではないにしても、それでもやはり気掛かりだ。何か行動を起こさずにはいられなかった。

 この「モルツマーメイド号」は、一九九六年に南米エクアドルから東京まで、約一万六千キロに及ぶ太平洋を単独で横断した際、百三十八日間行動を共にした相棒だ。地球の環境保全と資源の有効活用をテーマに、船体に、ビール缶にして二万二千個分のアルミ材を再利用して造った船で、世界で初めての試み。もちろん動力源には、太陽電池を使ったソーラーボートだ。長さ九・五メートル、幅一・六メートルほどの大きさだが、最先端の技術が詰まっている。アルミはリサイクルの優等生。それを実証してみせた船だ、とも自負している。

絵馬堂に納められるモルツマーメイド号
絵馬堂に納められるモルツマーメイド号

 そんな思い出深いモルツマーメイド号の落ち着き先が、九六年暮れ、正式に金刀比羅宮に決まった。奉納は一年後の九八年一月二十二日。全国で唯一、本物の船の奉納だ。船体の一部が奉納、紹介されている例はあるが、一艇まるごととなると金刀比羅宮だけ。海にゆかりのこんぴらさまに、私の分身である船を預かっていただくことになり、大変光栄なことだと思っている。

 金刀比羅宮へは六〇年、西宮のヨット仲間と詣でたのが最初。ちょうど新車を購入すると、お参りに行くように、新しい船を造った記念に安全を祈願した。瀬戸内海を“ドライブがてら”に、新船の感触も楽しませてもらった。六二年、マーメイド号で単独太平洋横断に初めて挑戦する前にもお参りした。実はお賽銭(さいせん)を上げなかったのに航海は無事成功。「こんぴらさまは、ちゃんと私の航海を見守ってくれていたんだ」と感じたものだ。モルツマーメイド号の奉納で、やっとそのときの不義理、罪滅ぼしができたような気がして、ホッとしている。

 来年十月には、南米・ホーン岬を東回りで通過する単独無寄港世界一周に挑戦する。今度もリサイクルしたアルミ材で造ったヨットと一緒だが原点はやはり、このモルツマーメイド号。東海大学が調査している酸性雨の観測にも協力することになっている。

 一人のヨットマンとして、海を愛し、地球を愛する者としての願いは一つだけ。金刀比羅宮にあるモルツマーメイド号をご覧いただき、地球環境への私の思いを、少しでも多くの方に感じてもらいたい。(談)

(2003年7月20日掲載)


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