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瀬戸内物語 北川フラム

(75)大岡信さんを悼む 思想は瀬戸芸の指針に

2017/04/29

大岡信さん=2003年10月

大岡信さん=2003年10月

 今月5日、詩人の大岡信さんが亡くなりました。享年86歳でした。

 大岡信さんの「うたげと孤心」にある日本伝統の精神は、私が芸術祭を行っていく際の指針になっています。むしろ作法と言った方が良いかもしれません。

 氏は、紀貫之をはじめとした日本の詩歌を渉猟し、その精神は「懸詞(かけことば)や縁語のような単純な要素から本歌どりまで、また短連歌から長大な連歌、俳諧まで、あるいは謡曲の詩章にその好例を見ることのできる佳句名文の綴(つづ)れ織りスタイルのごときにいたるまで、一様に『合わす』原理の強力な働きを示すものだと言わねばならないし、これを制作の場についていえば、協調と競争の両面性を持った、円居(まるい)、宴(うたげ)の場での『合わせ』というものが『歌合』において典型的にみられるような形で、古代から現代にいたるまで、われわれの文芸意識をたえず支配してきたということを考えずにはいられないのである」

 宴とは言葉や動作、なんでもよい、人と人が合わすことなのだと氏は述べ、その「合わす」「宴」との往還関係のない表現は豊かでないと言います。

 しかし、それだけではいけません。

 「現実には『合わす』ための場の真っ只(ただ)中で、いやおうなしに『孤心』に還(かえ)らざるを得ないことを痛切に自覚し、それを徹して行った人間だけが、瞠目(どうもく)すべき作品をつくった。しかも、不思議なことに『孤心』だけに閉じこもってゆくと、作品はやはり色褪(あ)せた。『合わす』意志と『孤心に還る』意志との間に、戦闘的な緊張、そして牽引(けんいん)力が働いているかぎりにおいて、作品は稀有(けう)の輝きを発した」

 そして、その最後は「見失ってはならないのは、その緊張、牽引の最後に高まっている局面であって、伝統の墨守でもなければ個性の協調でもない。単なる『伝統』にも単なる『個性』にもさしたる意味はない」となるのです。

 氏は生活のなかにこそ「芸術」がある。その生活の過程そのもののやりとりのなかに「うたげ」は用意されていくのだと述べます。「生活の芸術化」はたまた「芸術の生活化」。

 私は政治闘争の季節を経て美術学校に入ったあとも、既成の画壇、美術教育の仕組みに抵抗して、いわゆる学生運動に参加することになるのですが、芸大ではその内容は他の大学と幾分変わっていてテーマは「近代合理主義の限界、美術はそこからどこに行けるのか?」でした。そこには内ゲバはなく、スローガンの叫び合いもありません。先生方との対決の場で常に私の耳のなかで鳴っていたのは大岡さんの著作「芸術マイナス1 ―戦後芸術論」にあった「批評とは対象への深い愛だ」という言葉でした。氏は理解すること、その対象との押しつ、返しつこそが大切で、それが芸術的営為になっていくのだと考えています。

 そういえば良寛について講演していただいた時にも、「良寛の歌のよさには相手(貞心尼)との手紙のやりとりによる呼応関係の呼吸があって引き込まれる」と述べておられたことを思い出します。

 瀬戸内国際芸術祭のなかでも、ボルタンスキーの作品には明らかに地域の人々と接する気持ちの高まりと明るさがあったし、生活に根ざしながらも、それぞれの文化的伝統の中で育まれた外来の強力な芸術形式を受けとめ、そこにある地域に根ざした固有の美的、芸術的感性を磨いていくかを考え、それなりの可能性の芽がでつつあることを思う時、私が大岡信さんから得たものは、決定的で、根底からの日本文化・芸術についての思想であったことに気づくのです。

 大岡信さんの論考の一つ一つは一級の現場の詩人であるがゆえに、極めて実践的です。蕩児(とうじ)に常にあたたかく接してくださった大岡さんに感謝の華を奉り、その膨大な著作を読む楽しみが遺(のこ)されていることに、再度、礼を述べ、50年に渉(わた)る不肖の弟子の挨拶(あいさつ)といたします。

(アートディレクター)

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