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瀬戸内物語 北川フラム

(59)高村薫著「空海」考 芸術祭に信心の発端

2015/12/26

多くの人々は海に宇宙を感じ、大慈悲の遍く漂うことを知った

多くの人々は海に宇宙を感じ、大慈悲の遍く漂うことを知った

 先日、瀬戸内国際芸術祭に関係するさまざまなスタッフが一堂に集まって、いよいよ来年3月に迫った芸術祭の打ち合わせの話の際、後で驚くことに、普段あまり口にしない言葉が何かに感応したように喋(しゃべ)りでてくる経験をしました。私の場合、プロジェクトを進めていくなかで問題がでてきて、それを越えていこうとする時や、初めて出会う人がいる時など、それらの緊張のなかで、自分の心底にわだかまり、奥底に流れているものが自動的に発語されることが多いのです。瀬戸芸のお話を最初にいただいてから今年で10年目、私はこちらに伺って明らかに何かを心の核の中に持ち始めてきたように思うのです。今回は、最近発行された高村薫さんの「空海」に導かれての瀬戸芸発心の話です。人が持つ「信心」についてです。

 明らかに変わってきたことは、祖先に対する敬意と、祖霊が漂うあたりの土地への親しみ、言葉が表す抽象的というにはあまりにも厳然とある私たちを囲む風景への信頼などです。10年という年を経たせいもあるのでしょうが、それとも少し違う何ものかです。

 高村薫さんは、阪神淡路大震災の体験を、年老いていかれる母上に寄り添いながら言葉を削り思想化していった方です。「1995年1月、私は大阪の自宅で阪神淡路大震災に遭遇した。それを機に、私の42年の人生は文字通り根底から変わった。いかなる信心にも無縁だった人間が突然、仏を想(おも)ったのである。正確には仏らしきものと呼ぶのがせいぜいの、茫洋(ぼうよう)とした感覚に過ぎなかったが、とまれ、長らく近代理性だけで生きてきた人間が、人間の意志を超えたもの、言葉では言い当てることのできないものに真に直面し、そのことを身体に刻んだのだ。以来、手さぐりで仏教書をひもとき、仏とは何かと考えて続けて今日に至っているが、それでも信心なるものにはいまなお手が届かない。」

 私も高村さんの気持ちに近く、阪神淡路以来、少しずつ、どうにもならない災禍のなかでどうやっていくかを考え始め、第1回瀬戸芸の終了後の東日本大震災の体験が重要な思考の要素になっていきました。これに加えて、どうにもならない現在の政治・社会・人心のなかでどう生きていくかを大切な要素として考え始めたのでした。高村さんはそんな世界のなかで生まれてくる信心の根拠を探ろうと空海の世界を旅するのでした。

 学僧を止めて官吏への道を投げ打って空海が室戸岬の洞窟で「虚空蔵求聞持法(こくうぞうぐもんじほう)」を求めて修行をするなかで、論理を超えた即身成仏に向かう契機をつかんだといわれていますが、それは「谷響を惜しまず明星来影す」(三教(さんごう)指帰(しいき))というべき、肉体を追い詰め、虚空蔵菩薩の真言を唱え続ける心身の限界のなかで意識が感応する世界だと思われますが、彼は後に学僧として並ぶもののない頂点にありながら常に色即是空ともいうべき絢爛(けんらん)たる世界を眼前させ、梵字一字一字が全宇宙のあらわれであることであり、宇宙と個の心身の感応をこそ体感していたからだと思えるのです。

 その絶対的な特異点こそ、信心というべきものではないかと最近思うようになりました。それは五感全開の果ての世界です。

 そういえば、私には高雄山寺(現在の神護寺)の木彫薬師如来を見続けた5時間ほどの一瞬、サモトラケのニケを半日見続けた一瞬、いわば星の瞬間とも思える体験があるのですが、それは、それら豊穣な空間こそ一瞬絶対的点が空であり有であるという現世を止揚するために、空海が曼荼羅(まんだら)を眼前させた理由にも思えてくるのです。「仏陀(ぶっだ)の死以来、人々が追い求めてきたのは仏舎利や仏像といった目に見える信仰の対象であり、そうした具体的な対象があったからこそ仏教が営々と永らえてきたことを思うとき、目に見えるものとしての曼荼羅への空海の直観的な傾向は、よく理解できるような気がする」と高村さんは記しています。

 こう書いてくると、地球環境が崩壊に向かい、資本主義が生きる倫理を失い、都市に希望が見えない現在、多くの人々が「明星来影す」海に、宇宙を感じ、大慈悲の遍(あまね)く漂うことを知ったことの理由がわかる気がするし、松島、宮島、天の橋立が三奇景として寿(ことほ)がれている由縁にも心当たるものがあるのです。今、大師への渇望は少しずつ高まっているようです。この10年間で信心というべきもののありがたさを感じ始めたものでした。それは色音風などが豊かにある世界です。

 ここを出発点として、いよいよ第3回目の芸術祭を迎えることになるのです。たとえわずかとはいえ、そのような体験が瀬戸芸にあり、その体験こそ即身成仏の契機なのではありますまいか。

(アートディレクター)

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