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瀬戸内物語 北川フラム

(56)「赤倉の学堂」 立ち上がる集落の時空間

2015/09/26

「赤倉の学堂」ナウィン・ラワンチャイクン+ナウィンプロダクション(中村脩撮影、大地の芸術祭実行委員会提供)

「赤倉の学堂」ナウィン・ラワンチャイクン+ナウィンプロダクション(中村脩撮影、大地の芸術祭実行委員会提供)

 地域に入ったアーティストの感動的な仕事を、この夏行われた新潟県の越後妻有地域の「大地の芸術祭」で体感することができました。昨年、小豆島は福田地域の福武ハウスでも作品を発表したタイのナウィン・ラワンチャイクンの「赤倉の学堂」です。赤倉は十日町市街地から深い渓谷に沿った道を車で30分ほど行ったところ。まさに赤倉という集落名そのままに赤土が露出する絶壁で遮られた場所で、800年前に2人の落武者によって開かれた古い集落です。

 そこに今も伝えられている赤倉神楽は民俗文化財となっています。人口は40人ほど、平均年齢は65歳を超えています。子どもはいません。そこに小さな校舎と体育館兼用の講堂が残されています。これまでの大地の芸術祭でも佳作が発表されてきた場のポテンシャルが強いところです。暗い小さな講堂にスクリーンが張ってあって、観客は15分ほど映像を見ることになります。それは何度かの赤倉滞在を終えたナウィンが集落の人々に宛てた手紙を村人が順番に読んでいく、その進行に沿って彼の滞在中の村人との交流の映像が流れていくのです。

 アーティストは知る限りの知識をもって5月、雪の残る集落に初めて入ります。その時すでに彼は、集落の全住民を訪ね、話を聞き、その映像を撮ること、そして集落の人々をルネサンスの巨匠、あのラファエロの半円形の名作「アテネの学堂」に出てくるプラトンやアリストテレスら哲人になりかわって登場してもらうことを考えていました。着地点が想定されていたのです。彼らの人生が(あるいは集落の消滅が)あるべき終着点に向かっていくことを、人生の事実としてどう捉えているかを知り、自分もその不可避な事実に向き合おうとしていたのです。

 しかし、村の人たちの話を聞き、山菜を採り、豪雪の中で生きる生活を住民が大切にしているアルバムの中に辿(たど)り、かつまたお年寄りが小学校の校歌を今も歌えることに感動したりしながら、最初考えていたことが変化していく気持ちを淡々と述べていくのです。この彼の気持ちを、村人が代わる代わる語るところがこちらの胸を少しずつ揺るがすのですが、その中でナウィンは、20年前、福岡県の日本人の女性と結婚して、5千人もいる大団地に「唯一の変な外人」として入った経験、故郷のチェンマイで商売を営む父親が、その効率は抜きにしても生業(なりわい)を続けていくことに納得したりすること、つまり、父親として、息子として、アーティストとして、ふつうの人間として、どう考えるかという心の動きが伝えられていくのです。

 日本に来た外国人と、長年かけてきた生業を奪われるお年寄り、それから日本国の山深い集落のなかで生き抜いてきた人とが重ね合わせになっていくのです。その時、当初考えていたアテネの学堂は赤倉の小学校前に展開するチェンマイの露店のなかに、かつてここに生き、この地で育った赤倉の住民の肖像となって蘇(よみがえ)り、モノクロームで構想された画面はまさに土地のアイデンティティーである赤系に変わっていき、完成されたその半円形の絵画は、廃校の隣にある2本の桜の木の間に「正しく」掲げられるのです。

 映像を見終わったあと、私たちは、ナウィンの手紙が掲げられ、校歌や校章旗があるこの空間こそ、まさに「赤倉の学堂」としてあることに気づき、開けられた扉から見透かす校庭の桜の木の間にある絵画作品によって、ここに生きた人々と集落の時空間が立ち上がっていることを知るのでした。それはブリューゲルやベラスケスが描いた絵画に匹敵する世界の誕生のようなものに感じられたのです。

 私は雨のなか、或(ある)いは抜けるような青空のもとで、この絵画のある校庭を幾度となく逍遥(しょうよう)しました。妻有の芸術祭20年のなかで、集落の記憶と現在と未来が見えたような気さえしたのです。

 ナウィンは来年の瀬戸内にやってくるでしょう。そして、切り離された島々、そしてその端に生きる人々にどう関わっていくのか、とても楽しみです。海で繋(つな)がる瀬戸内とアジアの人々のなかにどういった光景が見えるか期待するのです。

(アートディレクター)

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