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瀬戸内物語 北川フラム

(40)多彩な海の表情 水蒸気がつくる魅力

2014/05/31

多彩な表情を見せる瀬戸内海

多彩な表情を見せる瀬戸内海

 瀬戸内の美しさについては、四季それぞれ、あるいは一日のなかでの時間の移ろいに応じて、人それぞれに豊かで煌(きら)めく多くの経験を持っています。

 この季節の思い出といえば、10年ほど前の霧深い日、突然、四方八方から霧笛(というのでしょうか)が鳴って、数時間船がその場で停止したことがあり、この体験は忘れられません。この靄(もや)とか霞ともいわれる水蒸気が風景全体を印象づけることは、この列島と大陸深層部の特色です。

 菜の花畠に 入日薄れ見わたす山の端 霞ふかし(高野辰之)

 マッチ擦る つかのま海に 霧ふかし 身捨つるほどの 祖国はありや(寺山修司)

 哀愁の町に霧が降るのだ(椎名誠)

 日本の文学界だけではなく、フランスのシムノンの探偵小説には「海を見ていたマリー」をはじめ、海と霧はとてもよく出てくるし、よく似合います。たった一度の生を生きる人間にとって海の霧は異界への入り口を荘厳するものだったかのように思われます。

 以前も挙げた志賀重昴の「日本風景論」(明治27年)のうち「山陽道、四国の北半」にもあるように、水蒸気が多い風土のなかにあって、時々水蒸気が流れ、蜃気楼(しんきろう)があらわれると、瀬戸内海の魅力を述べています。十分日本的、そしてそれを打ち払う明るさ、時折垣間見せる日本的なもの、これが瀬戸内海の魅力なのでしょう。

 こんなことを考えたのも、東京芸術大学の美術学部長をしている油絵科の保科豊巳さんが、この間、中国の名人と共同で墨絵を描いたのを目撃したからでした。保科さんは度々、瀬戸内、特に小豆島に来ていて、瀬戸内国際芸術祭とも縁の深いアーティストなのですが、墨絵を描く動機のなかに瀬戸内の体験がまるでなかったとはいえないように思ったからです。

 必要は発明の母。大陸と日本で墨絵や南画が流行したのは、この水蒸気、蜃気楼と深く関係があったのではないでしょうか。靄や霞など水蒸気による曖昧(あいまい)な日本的風景にありながら、カラリと晴れた世界があり、しかしそれがまた靄ってしまうという、弁証法的な、言い換えれば、いれこのような構造であるのが瀬戸内海の持つ別格な魅力であるのと同じように、保科先生は油彩画家でありながら水墨に手を染め、それによってまた違った現代美術の制作者になる。

 この面白さは坂出市にある東山魁夷せとうち美術館の東山画伯の絵画の魅力であることに思い当たったのでした。東山さんの作品は一種スーラの点描のような、茫漠(ぼうばく)たる霞の向こうにある風景を描いているように見え、実はそれによって厳と存在する山や森を確かに見せているという魅力を持っています。

 そういえば、どの季節でも、夕方までの限られた時間、高松港から小豆島の草壁港行きの船に乗れば黄金色に輝くような蜃気楼を見ることができます。岡山県の写真家、緑川洋一さんが撮る夜の鋼板が輝くような海も、東山魁夷さんが描く靄の奥にある山水の存在感ある実体も魅力的ですが、瀬戸内海の表情は実に豊かで多様、多彩であり、この黄金色の蜃気楼が波だち、泡だち、ゆらめき千変万化する移ろいを、多くの人に味わってほしいと思います。風景は秘されるものではなく、万人に開かれているからこそ、素晴らしいのです。

(アートディレクター)

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