2016年は世界が大きく揺れ動いた。英国は欧州連合(EU)からの離脱を選択し、米国では型破りのトランプ氏が大統領に当選した。韓国では大統領が議会に弾劾され、中国やロシアとの関係も新たな段階を迎えている。
そんな中、日本は新年をどう迎えるのか。基本となる座標軸を考えてみる。
まず強調したいのは、世界が激動する中、先に「日本の理想像」を考えてはいけないという点である。
日本では「平和な日本を守れ」などと左翼も右翼も理想を唱えるが、私たちがいくら「こうありたい」と願っても、自分を取り巻く環境の中でしか日本は生きられない。だから、まず世界の現状をしっかり見極める。そのうえで日本の立ち居振る舞いを考える。それが現実主義だ。
そこで周囲を見渡せば、北朝鮮は今年、日本海に21発のミサイルを打ち込んだ。中国は尖閣諸島周辺に軍艦を派遣した。日本を脅かす脅威にどう対処するか。これが真っ先に考えなければならない課題である。国の平和と安定なくして繁栄はない。
中国とガチンコ対決しているのだから、そのうえロシアとケンカするわけにはいかない。だから、日ロ首脳会談は北方領土交渉に大きな進展がなかったとしても、経済協力を深める合意をしただけで成功と評価できる。友好関係が深まるからだ。
たとえば、中小企業同士が提携し新たなビジネスが始まれば、双方に関係拡大の機運が高まる。それが領土交渉の前進に役立つ。
中国は軍事力で尖閣諸島を脅かしているが、国内は矛盾だらけだ。国営企業改革も金融市場改革も進まず、習近平国家主席の強権化だけが加速している。そんな中国には領土、領海、領空の守りを固めつつ、是々非々で向き合っていけばいい。
それから北朝鮮だ。ミサイル攻撃に防御ミサイルで対抗するだけで十分なのか。米国の実験でも命中率は80%強にとどまっている。そうであれば、ミサイル発射台を叩く攻撃能力を備える議論も始めるべきだ。それが抑止力向上につながる。漁船や都市が攻撃されてからでは遅い。
韓国の混乱は当分、続く。日本にとって心配なのは、次の政権が容共野党政権になる可能性だ。韓国が北朝鮮包囲網から実質的に脱落し、日米韓の連携にひびが入るようだと日本に悪影響が及ぶ。
ソウル日本大使館前の慰安婦像撤去も見通しが立たなくなり、慰安婦合意はまたも反故にされかねない。
欧州は来年が正念場だ。3月にオランダ総選挙、春にフランス大統領選、秋にドイツ総選挙と続き、そこで自国優先主義の右派が勝利するようだと、暗雲が立ち込める。すでに深刻化しているイタリアの金融不安も加わって、欧州発の激震が再び世界を揺るがす可能性がある。
そんな中、安倍晋三首相は26日、米国の真珠湾を訪問しオバマ大統領と会談した。大統領の広島訪問を受けた「和解と鎮魂の旅」ではあるが、それにとどまらない。世界とりわけ中国とロシアに日米同盟の強固さを訴えるメッセージでもある。
激動する世界にあって、安定政権を擁する日本はいつのまにか自由と民主主義、法の支配、人権、市場経済を守る旗手になった。それが世界の日本に対する期待である。
円安効果もあって経済にも追い風が吹いている。17年は日本の年だ。
(東京新聞・中日新聞論説副主幹、四国新聞特別コラムニスト)