いま世界の目がトランプ次期米大統領に注がれている。「異端の大統領」の登場で日本と世界はどうなるのか。
環太平洋連携協定(TPP)について、トランプ氏はあらためて離脱を表明した。一部には「いずれ軌道修正する」と期待感も出ていただけに落胆が世界に広がった。
マスコミには「自由貿易に打撃」とか「保護主義が広がる」といった悲観的解説が飛び交った。だが、そんな見方は早計ではないか。TPPが成立しなくても現状は続く。つまり何も変わらない。
トランプ氏は離脱表明で「2国間協定に力を入れる」とも言っている。例えば、日本と米国の自由貿易協定(FTA)もありうる。複数国相手のTPPよりも一国を相手にしたFTAのほうが有利に交渉できると踏んだのではないか。ビジネスマンの面目躍如といった感じである。
それなら日本は腹を決めて米国とのFTA交渉を受けて立つべきだ。日米の国内総生産(GDP)はそれぞれ世界の3位と1位を占める。そんな大国同士がFTAを結べば「遅れてはならじ」と追随する国も出てくるだろう。結果として、TPPに匹敵する自由化効果も期待できる。
永田町や霞が関には日米FTAに消極的な声がある。「相手が米国では結局、力で押し切られて不利になる」と尻込みしているのだ。
なぜかと言えば「日本は安全保障で米国の世話になっている弱みがある」と考えるからだ。米国にはノーと言えないと思っているのだ。
だが、そういう時代も「トランプ政権」の登場によって曲がり角を迎えている。大統領自身が「米国はもう弱い。日本が従来のように米国に守ってもらいたいなら、米軍駐留経費を全額負担せよ」と言っているのだ。
この問題をどう考えるか。
もしも米軍が撤退して日本が独自防衛するなら、中国や北朝鮮の脅威に対抗するために、少なくとも15兆円以上の追加負担が必要になる。一方、米軍経費を全額負担したとしても、せいぜい1500億〜2500億円程度である。
それを踏まえたうえで全額負担すれば、米軍は事実上、日本の傭兵(ようへい)になる。米国は容認できないはずだ。となれば結局、日本が防衛力を強化して米国の負担を減らす話になるのではないか。
それは日本のチャンスである。日本は米国との役割分担を見直して、北朝鮮の核とミサイルに対抗する策源地(敵基地)攻撃能力を整備すべきだ。トランプ氏は選挙戦で「いつか米国が日本を守れない日が来る」とも述べていた。そうであれば、日本が独自の攻撃能力を身につけるのは、歓迎こそすれ反対する理由はないはずだ。
そういう展開になるなら、日本が米国とFTA交渉をするのに米国に引け目を感じている必要はない。日本はまさに貿易通商と安全保障の両面で新たな対米関係を構築する好機を迎えている。
トランプ氏が減税と大規模財政出動を唱えているのを受けて、金融市場は金利上昇を予想しドル高円安で推移している。円安は日本の輸出に追い風だ。関税引き上げで中国や日本の輸出を抑えたい思惑とは相反する動きである。
中国や日本の製品に高い関税をかけようにも、世界貿易機関(WTO)の最恵国待遇原則に抵触してしまう。つまり、トランプ氏の経済政策には綻(ほころ)びが見え始めた。ここは冷静に新政権の出方を見守る局面だ。
(東京新聞・中日新聞論説副主幹、四国新聞特別コラムニスト)
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