来年4月に予定されていた消費増税の先送りと7月衆参ダブル選の見通しが強まってきた。私は昨年8月以来、この欄で繰り返し、増税先送りとダブル選予想を示してきたが、その通りの展開だ。
なぜ、再び増税延期でダブル選なのか。あらためて考え方を書いておこう。
経済政策はあらかじめ何年も前から「こうする」と決め打ちすべきものではない。現実が常に揺れ動いている以上、状況に応じて柔軟に対応するのが大原則だ。
いま中国のバブルが崩壊し、歴史的低水準の原油価格が資源国を揺さぶって、世界的な株価低迷を引き起こしている。日本は相変わらずデフレを脱却できていない。日銀はマイナス金利導入に踏み切ったが、消費者物価上昇率2%の目標達成を早くとも来年9月以降に先送りした。
経済の先行きに暗雲が垂れ込めているのだ。首相官邸で開かれた国際金融経済分析会合に出席したノーベル経済学賞受賞者であるスティグリッツ教授の言葉を借りれば「世界経済は大低迷」である。
こうした中、先の20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は各国に金融緩和に加えて財政政策の発動を求めた。5月に日本で開かれる主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)も同じ政策路線を引き継ぐはずだ。
そうであれば、議長国を務める日本が消費増税を決めるのは「サミットの仲間に対する裏切り」と言っても過言ではない。財政政策の発動で一致したなら、日本は補正予算による歳出拡大に加えて、増税どころか実は減税が求められる局面なのだ。
安倍晋三首相の経済ブレーンである本田悦朗内閣官房参与は7%への消費税引き下げを唱えているが、私はいつまでたってもデフレを脱却できない現状を前にすれば、いっそ5%に戻すべきだと思う。
中国のバブル崩壊と原油安という世界経済の下向き圧力を跳ね返すには、それくらい大胆な政策があって、ようやく下支えできる程度ではないか。安倍首相はスティグリッツ教授らと危機感を共有している。増税は間違いなく先送りされるだろう。
そのうえで、次の引き上げ時期を明示しない増税凍結、減税もしくは大規模補正予算など予想を超えた「サプライズ」もありうる。首相にとって、今回は任期切れ前の大勝負である。
増税先送りとなれば、7月の参院選が衆参ダブル選となるのは必至だ。なぜなら安倍首相は前回の解散に際して「リーマン・ショック級の事態が起きないかぎり、次は必ず増税する」と繰り返し国民に語ってきたからだ。
いまの事態はリーマン・ショックを上回るかもしれない「大低迷」だ。それでも国民に強く増税断行を示唆してきたからには「先送りでいいかどうか」あらためて国民の声を聞く。それが民主主義の大原則であり、政治の正統性を担保する王道である。
政治評論家はよく「勝てるうちに選挙をするのだろう」などと解説するが、本質を見誤っている。安倍政権が前回、解散を断行したのは、国民の声によって増税勢力をなぎ倒すためだった。政治の正統性にこだわったからこそ選挙に打って出たのだ。今回も同じ展開になるはずだ。
新たに結成された民進党や共産党は増税反対を唱えている。となれば、野党は与党との対立軸をどうするのか。格差是正は大切としても、デフレを脱却して景気を良くする道筋を示せないのでは、国民の支持は得られない。
(東京新聞・中日新聞論説副主幹、四国新聞特別コラムニスト)
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