2015年は「時代のモード(様式)」が大きく変わった年だった。過激派組織、イスラム国(IS)による2月の邦人殺害事件や11月のパリ同時多発テロは象徴だ。
テロリストは中東の砂漠だけでなく都会の隠れ家にも潜んでいる。米欧など各国は空爆を続けているが、効果ははかばかしくない。テロとの戦いはずっと続くだろう。
中国やロシアの乱暴なふるまいも改まる気配がない。
ロシアのクリミア軍事侵攻を目の当たりにして、国境を接する欧州は緊張している。南シナ海では岩礁を埋め立て、軍事基地建設を急いでいる中国とイージス艦を派遣した米国が一触即発の状態だ。中ロと米欧は「新しい冷戦」に突入したと言っていい。
尖閣諸島を防衛しなければならない日本も、もちろん緊張の例外ではない。
これまで世界は国連を軸に平和と秩序維持の努力を続けてきた。だが、国連の中心にいる中ロ両国が国際法を踏みにじっている。両国は安全保障理事会で拒否権をもつ常任理事国だ。本来、秩序を守らせる側が自ら秩序を破って平然としている。だから国連は事実上、機能していない。
私自身を含めて、多くの人々はつい数年前まで「貿易を通じて相互依存関係が深まれば平和と繁栄は約束される」と思い込んでいた。そんな楽観主義は暴力と無法の連鎖を見せつけられて、すっかり消え失せてしまった。
いま私たちが生きているのは、世界の秩序が揺らぐ「テロと戦争の時代」である。平和も繁栄も天から降ってはこない。自分が身を守る術を身につけて、与えられた環境の下で生き抜く知恵を振り絞らなければ、未来を展望できない時代に突入したのだ。
安倍晋三政権が安全保障法制を抜本的に見直したのも、そんな時代の変化が根本的理由だ。日本は軍事大国化した中国に自分だけで対応できない。そうであれば、集団的自衛権の限定的行使を容認して米国との同盟を強化するのは合理的な選択である。
難産の末、合意した環太平洋連携協定(TPP)にも同じ戦略的判断がある。中国が力を背景に現状変更を試み、新たな秩序作りを目指すなら、自由と民主主義、人権、法の支配を守る国が結束しようとしているのだ。
まもなく迎える16年はどんな年になるのだろうか。
残念ながら、私は平和と安定が簡単に取り戻せるとは思えない。むしろ、秩序崩壊のプロセスは加速していくのではないか。予兆もある。
米大統領選では挑発的言辞を続ける共和党のトランプ候補が大健闘している。「イスラム教徒の入国禁止」のような排外主義的政策を唱える候補が多くの支持を集めるとは、かつての米国ではとても考えられなかった。
フランスでも極右政党が躍進した。米仏で極右主義者が権力を握ったら、きな臭さは一層深まるに違いない。民主主義国も岐路に立っている。
日本は来年、伊勢志摩サミットを主催する。テロと中国、ロシアとの緊張が続く中、世界の持続的成長をどう確保するかが中心議題になるはずだ。テロ対策では協力を求めつつ、南シナ海、ウクライナ問題では中ロを批判する難しい対応を迫られる。
日本だけが理想郷を目指して、欧州で難民が途方にくれる現実に目を背けるのも許されない。夏の参院選は衆参ダブル選になる可能性が高い。戦争反対のようなスローガンではなく、現実に立脚して平和と繁栄を模索する政治の真価が問われる年になる。
(東京新聞・中日新聞論説副主幹、四国新聞特別コラムニスト)
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