亡き家族、元恋人らに宛てた手紙やはがきを受け付けて展示する三豊市詫間町粟島のアート作品「漂流郵便局」。3年前の瀬戸内国際芸術祭の秋会期に開局し、2度目の瀬戸芸を迎えた10月、制作者の久保田沙耶さん(28)と局長の中田勝久さん(82)、今年誕生した英国漂流郵便局の局長、ブライアン・ペインさん(69)のそろい踏みが初めて実現した。投函(とうかん)した人の思いを最も大切にする3人に、これまでの歩みや将来の展望を語ってもらった。

 -今回と前回の瀬戸芸で、関わり方に違いは。

 久保田 前回は作品コンセプトの説明が中心だったが、今回はもう、皆さんがそれを知ってくれている。中田さんがつくった小さな日常や文化的な空気感もあるから、前回よりもっと深い部分で関われている。初対面の人とも何か共通項があって、同じ土台で話している感じがする。

 中田 台湾からの郵便物が増えた。沙耶ちゃんの本「漂流郵便局」の翻訳が台湾で出版され、現地の新聞に取り上げられた。それで実際に来てくれる人も多い。

 久保田 台湾の人がいらした時、中田さんは筆談で応じてくれている。言葉は通じなくても、自然とそうした振る舞いができて、一期一会を大切にする。今日できることは明日に持ち越さない姿勢にも学ばせてもらっている。

 -日英の両局長の初対面がかなった。

 ブライアン 英国局長を依頼された時はチャリティー活動に力を入れており、地域の役職もあった。とにかく忙しく、そちらをおろそかにしたくはなかった。それに、中田さんの熱心な仕事ぶりを聞いていると、とても引き受けられそうにないと思った。

 久保田 ブライアンさんに偶然初めて会った時、印象が中田さんと似ていた。2人とも郵便局に勤めていたという経歴だけでなく、周りを引きつけ、笑顔にする力が同じ。慈善事業、地域活動を大事にしている点も共通していた。中田さんと同じように初めは断られたが、何としても口説き落としたいと思った。

 ブライアン パラシュートを着けずに飛行機から飛び降りる気持ちで引き受けたら、いい方向に人生が変わった。大勢の前で話すことなんてできないと思っていたが、英BBCラジオに出演するなど、初めての経験をたくさんできた。大きいプロジェクトの中の一員になれてうれしい。

 久保田 今年3月に帰国する私に「僕は日本に行くと決めたんだ」と言ってくれた。約束を守り、自費で粟島に来ると聞いた時は、言葉にならないほどうれしかった。

 -漂流郵便局の今後の展開は。

 久保田 私は3年前に島に来た時、“侃々諤々(かんかんがくがく)”な態度で、もしずっとそのままだったら、漂流郵便局は続かなかった。今回、「成長したな」と中田さんが言ってくれた。(私が変化したため)皆がまろやかに同じ方向を向いている。今が一番ぴったりと息が合っている。言葉ではなく雰囲気で感じ取るような、解像度の高いコミュニケーションができている。

 ブライアン 一番大切なのは手紙やはがきを送ってきた人の気持ち。その価値はすごく尊く、大事にしなければならない。

 中田 高松南郵便局の方が実際に使っていた仕分け箱を貸与してくれ、郵便物の展示用に重宝している。漂流郵便局で取り扱う切手シートも限定販売され、多くの人に購入してもらっている。

 久保田 実際に郵便に携わる方々が、厚意で協力してくれていることがたくさんあって感謝している。島への理解は、島と関われば関わるほど深まっている。今後はそれに加え、大勢の人たちが汗を流して物流を築いた時代を知る中田さん、ブライアンさんを間近で目にし、話を聞いた経験を生かしたい。