現代美術家ヤノベケンジの四国初となる大規模な個展が、16日から香川県高松市紺屋町の市美術館で開かれる。テーマは「シネマタイズ(映画化)」。ストーリー性とキャラクター性のある初期の造形物から近作までを一堂に展示するなどして、映画の物語の世界に入り込んだような空間を演出。会期中、展示室は実際の映画のセットにもなり、俳優永瀬正敏主演の「BOLT」(林海象(はやしかいぞう)監督)の撮影を行う。

 自作の放射能防護服「アトムスーツ」を着用してチェルノブイリを探訪したプロジェクトに関する作品をはじめ、ドローイングや模型、ドキュメンタリー映像なども交えながら構成。現代社会と向き合いながら創作を続け、主題を「サヴァイヴァル」から「リヴァイヴァル」へと移行した軌跡もたどれる。

 出品作のうち、高さが6メートルを超える巨大なモニュメント「サン・チャイルドNo.2」は、東日本大震災からの復興の願いを込めたという。

 実質的なデビュー作「タンキング・マシーン」や、きゃりーぱみゅぱみゅの美術演出を手掛ける増田セバスチャンとの共作「フローラ」も展示。大量のフィギュアが並ぶインスタレーションや、ヤノベ作品の語り部にもなるユニークなキャラクター「トらやん」をモチーフにした子供部屋のような空間なども広がる。

 今回撮影する映画「BOLT」はSFで、巨大地震後に原子力発電所から漏れた汚染水を永瀬演じる作業員らが決死の覚悟で止めに行く物語。極限状態の人間模様を描く。舞台となる展示室では、大きなとげを施した内部に雷発生装置を備え、水も用いた作品「黒い太陽」を原子炉に見立て、インスタレーションを展開。長さ約20メートルのトンネルも設置する。

 担当学芸員は「物量の点からすると、高松市美術館で過去最大規模の展覧会ではないか」としている。

 「ヤノベケンジ シネマタイズ」展は9月4日まで。無休。入場料は一般1000円ほか。高校生以下は無料。7月16日午後2時からヤノベ、永瀬、林によるトークショー(一般1000円ほか)がある。問い合わせは同美術館、電話087(823)1711。

ヤノベケンジインタビュー 「作品から物語創造して」
 社会的なメッセージにユーモアを盛り込み、イマジネーション豊かな作品を発表しているヤノベケンジ。個展の準備のため7月上旬、高松市美術館を訪れたのを機に、作品に込める思いや香川の印象などについて聞いた。(生活文化部・藤川慎也)

―四国初の大規模な個展となるようだが。

 「僕の中でも最大規模の個展。集大成的な位置付けだ。作品は、ただの彫刻ではなく、体に装着できたり、中に入れたり、運転できたりと機能性があるのが特徴。核の問題や震災など世の中との関わりの中から生まれ、メッセージ性を込めている」

―今回は、なぜ映画をテーマにしたのか。

 「映画のようなストーリー性を持つ作品からその時代時代の物語を感じることができ、僕の人生の映画を見るようにも鑑賞できる。実際の映画セットにもなり、登場人物になった気持ちでストーリーを膨らませられる」

―作品をどう見てほしい。

 「会場では水を使い、雷や風も起きる。一人一人が会場を歩きながら体感し、肌で感じ、考え、想像力を働かせながら自分の中で新しい物語を創造して楽しんでほしい。映画館で見る映像ではないが、画期的な映画作品だと思う」

―映画「BOLT」に主演する永瀬正敏がヤノベ作品をモチーフに撮った写真も展示する。

 「表現や仕事に対する徹底ぶりに圧倒された。こだわりと実現能力もプロフェッショナル。今回の写真も、俳優としての表現力と同様に素晴らしい仕上がりになっている」

―18日には瀬戸内国際芸術祭2016夏会期が開幕する。小豆島町でビートたけしとコラボした「美井戸(びいと)神社」などを出品しているが。

 「瀬戸芸は本当に楽しいイベント。アートを見ながら旅をする独特のコンセプトの下、ぜひ高松市美術館にも小豆島にも足を運んでほしい」

―香川の印象は。

 「外からの人を受け止めてくれる心豊かなところ。3月にリニューアルオープンした高松市美術館も素晴らしく、僕のやりたいことを理解してくれて感謝している」