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第3部 定年からが人生だ(1) 熱中する(登山) 夢は自然体験ガイド 
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 四月、マレーシアのキナバル山(四、一〇一メートル)▽五月、富士山▽六月、ペルーのコルデリア・ブランカ(四、八〇〇メートル)▽八月、モンブラン(四、八一〇メートル、洪水で断念)▽九、十月、神戸などでロッククライミング道場入門▽十一月、西穂高岳▽十二月、兵庫・鳥取県境の氷ノ山で雪中訓練▽〇三年一月、ケニアのレナピーク(四、九八五メートル)、キリマンジャロ(五、八九五メートル)▽三月、ネパールのヤラ・ピーク(五、五〇〇メートル、吹雪で断念)▽六月、八甲田山、蔵王など東北の八山▽七月、再挑戦でモンブラン登頂―。

モンブラン初挑戦で技術不足を痛感。ロッククライミングの練習に汗を流す越智さん=高松市内
モンブラン初挑戦で技術不足を痛感。ロッククライミングの練習に汗を流す越智さん=高松市内

 せきを切ったような山行だ。これらの合間を縫ってマスターズ陸上や小豆島オリーブマラソン、寒中水泳などに出場。現役時代以上のハードスケジュールにも「毎日が楽しくて。時間がいくらあっても足りない」と日焼けした顔をほころばせる。
 愛媛県菊間町で教員をしていた両親の間に、八人きょうだいの長男として生まれた。少年時代から海で遊び、科学とスポーツが大好きだった。今治北高を経て広島大では物理学を学んだ。
 大学時代は高名な教授の門下生となり、電子顕微鏡との格闘の毎日だった。一門が夜、昼なく研究でしのぎを削る世界。そんな環境でも山へ行き、音楽を楽しむ学生だった。大学四年で進路に悩んだとき、恩師から研究者は雑念を捨てる必要があると言われた。研究一筋は自分には向かないと悟り、熱心な誘いを受け香川で高校教師の道を歩み始めた。
 「こんなに面白いことがあっていいのか。二十二、三歳の若造が自分の能力も知らずに十七、八歳の子を教える。一緒に汗をかき、学んだ」と教師時代を振り返る。山岳部を率いて夏山を登り、校長になってからも校内マラソンを完走した。「目線と感覚を生徒と同じにし、与えるより共感する」。教師生活で実践した信念を最後まで貫いた。
 専門の物理学でも成果を上げた。高松工芸高時代、後の漆芸の人間国宝太田儔さんと机を並べたのを機に漆の構造、劣化や強さなどを電子顕微鏡を使って究明し、新説の論文を発表。ライフワークで取り組んだ「動作と体感を通じて物理を理解させる方法」は生徒の心理的発達に関連させた物理の授業展開として注目を集めた。
 定年後の人生設計について、いつも心に引っ掛かっていることがあった。父親の人生だ。定年後も七十歳まで教壇に立ち続け、念願だった研究に専念した矢先に病に倒れた。そんな父親の無念を見てきただけに「早く辞めないと山に行けなくなる」と、大学などからの誘いはすべて断った。
 それほどまで引きつける山の魅力を「微動だにせず真実としてある圧倒的な存在感が元気をくれるんです」。モンブラン初挑戦では「ハイカーではなくクライミングの技術が必要」と痛感させられ、すぐにロッククライミング道場に入門した。
 「最終目標は南米大陸最高峰のアコンカグア(六、九五九メートル)。それに向けて今、どこの山に登るべきかを常に考える。山は決して容赦してくれないですから」。毎朝四キロのジョギングとストレッチ、クライミング練習を日課にする。
 「外遊びを知らない今の子供たちは、このままでは危ない。もっと自然体験を通じて命の大切さを体感すべき。その手助けをしたい」。そう語る視線の先には、地域の少年たちの自然観察ガイドに情熱を燃やした父親の後ろ姿が見えているに違いない。
    ◇    ◇
 約八百万人いるといわれる団塊の世代が間もなく定年退職を迎える。早期退職などで、定年を待たずに再出発をする中高年も多くいる。長命の時代、余生という言葉はふさわしくない。退職後、自宅にこもり無為の日々を送る人がいる傍ら、これからが本当の人生だとばかりに新しい仕事に挑んだり、趣味やボランティア活動に生きがいを見いだしたりする人が増えている。
 二十一世紀を生きる私たちの幸福のカタチを探る年間シリーズ「青い鳥さがして」の第三部では、さまざまな困難と闘いつつ、自ら信じた道を歩む退職者の群像をリポートする。

(2003年8月17日四国新聞掲載)

 
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