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第1部 善根宿の遍路たち(1) 年越し(上)明日は笑顔の人生を 
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 びょうぶのように屹立(きつりつ)する五岳山の懐に抱かれ、ため池と田園があやなす空海誕生の里。善通寺市から多度津町にかけては、お大師さんとの「同行二人」を深く感じ得る四国遍路屈指の巡礼行路に違いない。
 七十七番札所道隆寺へと向かう多度津町葛原の遍路道沿いに「接待所・善根宿まんだら」の看板が掛かる。傍らの「お遍路さんの伝言板」にメッセージが書かれていた。
 「人生と言う長い長い遍路道 その道の途中で巡り逢った人達 通い慣れた道にも季節が巡ると新しい出逢いがあるように 誇りあるあなたの人生の中で 明日は今日よりも笑顔の人生であることを祈ります」
 まんだらは、ニットメーカーを経営する十川満さん(52)、まり子さん(52)夫妻が三年前、工場の一角にある旧自宅を改造して開いた。
 行き暮れた旅人やさすらい人を無料で宿泊させる善根宿。四国では、遍路へのお接待を象徴する場所として特別の響きを持つ。かつて四県の遍路道に沿って幾多の宿があったが、今では数えるほどに減ったとされる。
 大みそかの穏やかな午後、まんだらには正月をここで迎えようという遍路十人ほどが集まっていた。
 平屋建ての建物に三畳から六畳ほどの部屋が三つ。土間にはテーブルと冷蔵庫、洗濯機などが所狭しと置かれ、コーヒーや麦茶が用意されている。敷地内には五つのテントが張られ、野宿をしながら歩いている遍路人たちの姿があった。

年中札所巡りをしている歩き遍路たちが善根宿まんだらには集まってくる(写真は善通寺正門前に立つ托鉢遍路)
年中札所巡りをしている歩き遍路たちが善根宿まんだらには集まってくる(写真は善通寺正門前に立つ托鉢遍路)

 部屋では男性二人が大そうじに精を出していた。八十八カ所を打ち終えた後、まんだらに出入りし、訪れる遍路の接待をしている小坂昌敬さん(30)と、納経帳を前もって寺に届ける「先取り」の役をこなしている竹田昭則さん(40)=仮名=。
 奥の大師像の前には鏡もちやみかんが供えられ、ささやかな迎春ムードを醸している。
 「托鉢(たくはつ)に行ってくるわ」「気い付けてな」
 日が落ちるのに合わせ、男女二人の遍路が白衣にすげ笠、金剛づえを携え、七十五番札所善通寺(善通寺市)に向けて出発した。三が日で十数万人が繰り出す初もうで客の喜捨に期待を込めてだ。
 「きょうは大勢の托鉢遍路が出る。今から場所取りをしておくのよ」。盆も正月も関係なく、ひたすら札所を巡っているという愛媛県出身の西本千恵子さん(58)=仮名=が明かした。
 まんだらから善通寺まで距離にして約五キロ。車にあおられながら県道を歩く。七十六番札所金倉寺を過ぎると、田畑の中を進む遍路道へ。薄暮の空がにわかにかき曇り、冷たい雨が白装束をぬらした。
 「何度回っても、いつも景色が違う。出会う人も違う。だから、お遍路はやめられないんよ」
 西本さんは女一人の徒歩行にも不安はないという。「寺と寺の間にはお大師さんがいるんだよ。お大師さんと二人なのに、何の怖いことがあるの」。
 これも大師のご加護なのだろうか。不思議なまでに雨は上がった。
 善通寺に近付き、大通りに出る直前、ずっと押し黙っていた男性が口を開いた。
 「バツイチで今は独り暮らし」と話す埼玉県出身の平尾一雄さん(54)=仮名=。親の介護に迫られ、数年前に会社勤めを辞めた。
 「何かをつかめればと遍路を回り続けて一年半になる。漠然としたものでもいい。見えてくれば、そのとき初めて高野山に参りたいと思う」
    ◇    ◇
 夢や希望が見えにくい時代になった。二十一世紀を生きる私たちの幸福のカタチを探る年間シリーズ「青い鳥さがして」。第一部では善根宿を行き交う歩き遍路、それを支える人たちの生きざまを追う。

(2003年1月10日四国新聞掲載)

 
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